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長崎地方裁判所 昭和37年(ワ)448号 判決 1963年2月28日

原告 三宅金作

被告 嘉松スミ 外一名

主文

被告らは、別紙目録<省略>記載の建物につき、長崎地方法務局昭和二九年二月二三日受付第二二一〇号を以てなされた債権者まると商事有限会社のための強制競売申立登記の抹消回復登記を長崎地方裁判所が嘱託するについて同意せよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

原告は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告は訴外井村学に対する金五〇万円及びこれに対する昭和二六年一月二六日から完済まで年五分の割合による金員の確定債権に基いて、昭和三〇年七月一九日右井村所有の別紙目録記載の建物(以下本件不動産という)に対する強制競売の申立をし、長崎地方裁判所(ヌ)第六七号不動産強制競売事件として受理された。

二、ところが右井村の債権者まると商事有限会社が、既に昭和二八年一一月五日に本件不動産について強制競売の申立をし、長崎地方裁判所同年(ヌ)第七二号事件として受理され、同年一一月七日付競売開始決定による強制競売申立の登記が、長崎地方法務局昭和二九年二月二三日受付第二二一〇号を以てなされていた。

そこで原告の前記競売申立は右昭和二八年(ヌ)第七二号事件の記録に添付された。

三、その後前記井村の債権者舟本勝も昭和三〇年八月二二日本件不動産に付し強制競売の申立をし、長崎地方裁判所昭和三〇年(ヌ)第七八号事件として受理され、これも前同様昭和二八年(ヌ)第七二号事件の記録に添付された。

四、ところが原告申立にかかる前記昭和三〇年(ヌ)第六七号事件について、昭和三一年三月一日付の強制競売申立取下書が原告と債務者井村との連名を以て裁判所に提出された。

五、また前記まると商事有限会社申立による昭和二八年(ヌ)第七二号事件の競売開始決定は昭和三一年一〇月一七日、前記舟本勝申立による昭和三〇年(ヌ)第七八号事件の競売手続は昭和三二年二月一五日それぞれ無剰余により取消決定がなされた。

六、そこで長崎地方裁判所は前記まると商事有限会社申立の昭和二八年(ヌ)第七二号事件の強制競売申立の登記の抹消を長崎地方法務局に嘱託し、同局昭和三二年五月二一日受付第九一八一号を以てその抹消登記がなされた。

七、しかるに前記原告と井村との連名による強制競売申立取下書は原告に関しては偽造文書であり、右取下は無効であるから、長崎地方裁判所は競売手続を続行し、主文第一項記載のとおりの回復登記を嘱託すべきである。

八、ところが被告嘉松スミは長崎地方法務局昭和三二年九月七日受付第一五七七六号を以て、同年九月五日贈与による所有権取得登記をしており、被告株式会社十八銀行は(一)同局昭和三五年一〇月三日受付第二二八九五号債権元本極度額金五〇万円の根抵当権、(二)同局同日受付第二二八九六号債権元本極度額金五〇万円の根抵当権、(三)同局同年一二月二二日受付第三〇八三一号債権元本極度額金五〇万円の根抵当権、(四)同局同日受付第三〇八三二号債権元本極度額金五〇万円の根抵当権の各設定登記をしている。

九、故に被告らは、長崎地方裁判所が前記回復登記をするについて登記上利害関係を有する第三者にあたるから、その承諾を求めるため本訴に及んだ。

被告らは「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因事実中第一項ないし第八項は認める。しかしながら本件回復登記をするについて不動産登記法第六七条が添付を要求しているのは、登記上利害関係を有する第三者の承諾書に限るわけではなく、第三者に対抗することのできる裁判の謄本を添付しても足りるわけであるから、原告としては執行裁判所に対し執行方法の異議を申立てて、前記昭和二八年(ヌ)第七二号事件の競売手続の続行を求め、同裁判所をして抹消された競売開始決定の記入登記の回復手続をすることを求めれば目的を達するわけである。従つて原告には訴の形式を以て本件判決を求める利益がないから、本訴請求は棄却さるべきであると述べた。<立証省略>

理由

原告が請求原因として主張する事実は当事者間に争いがない。

被告らは本件抹消回復登記をするについて被告らの承諾書は不要であるから、原告に訴の利益なしと主張する。しかしながら、成立に争いのない甲第一九及び第二〇号証によつてみても、執行裁判所である長崎地方裁判所が本件競売申立の登記の抹消回復を嘱託するについては、被告らの承諾書もしくはこれに対抗することを得る裁判の謄本の添付が必要とされるのであり、右裁判というのは第三者である被告らに対して既判力の及び得る裁判の意味と解すべきであり、競売を続行する旨の裁判所の決定の如きものであつては足らないものというべきであるから、原告は本訴を以て被告らに承諾を求める利益がある。

而して本件の如く偽造の競売申立取下書が提出された結果抹消された登記の回復がなされるについては、利害関係を有する第三者である被告らはこれに承諾を与うべき義務があるものと解すべきであるから、原告の本訴請求は理由がある。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 海老原震一)

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